「子らにはさせまい この思い」

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平成25年度 全日本同和会 女性部研修会 意見発表 和歌山県連 天野 夕里子

平成25年度 全日本同和会 女性部研修会 意見発表 和歌山県連 天野 夕里子

先日、違和感をもつ事柄が、政府の世論調査の対象になっていることを知りました。

それは、「家族の法律制度に関する世論調査」というもので、次のような質問と回答結果が掲載されていました。

夫以外の男性、または妻以外の女性との間にうまれた子、いわゆる婚外子について、 法律制度の面で、「不利益な取り扱いをしてはならない」と回答した人は60.8%「ある面において不利益があってもやむを得ない」と回答した人は15.4%居ました。

続いて、婚外子が相続できる金額を、嫡出子の半分としている民法についての質問には、「変えない方がよい」と回答した人は35.6%「同じにすべきである」と回答した人は25.8%でした。

婚外子に法律制度の面で不利益な取り扱いをすべきでないと回答した人が 60.8%もいるのに対して、婚外子の相続分が嫡出子の半分しかないということについては、同じにすべきだ、と回答した人は25.8%しかいませんでした。

婚外子の相続分が嫡出子の半分というのは、婚外子にとっては、明らかに不利益で不当な扱いです。

1993年国連規約人権委員会にある、婚外子差別の法制度撤廃勧告委員会は日本に対して、「委員会は婚外子に対する差別的な法制度に特に憂慮している。特に、出生届と戸籍に関わる法文・慣行は規約17条と26条に違反している。 婚外子の相続権に関する差別は、規約26条に違反している」と指摘しています。  そして、「婚外子に対する日本の法制度を改正し、そこに含まれている差別的条項を削除し、本規約の第2、24と26条に適合するよう勧告する。日本に依然存在し続ける、差別的な法規と慣行は廃止されるべきである。日本政府はこの問題について、世論に方向付けを与えるよう努力すべきである」と勧告しています。

次に、1998年国連子どもの権利委員会は日本に対する総括所見において、「公的書類において婚外子の出生が記載されることを、とりわけ懸念する」「婚外子に対して現在存在している差別を是正するための立法措置がとられなければならない」と、このように、国連規約人権委員会や子どもの権利委員会は、婚外子の相続分が嫡出子の半分である旨を定めた日本の法律、民法900条4号が、国際人権規約に違反する差別であるとして、それを是正することを日本に何度も勧告しています

法律が誰かに不利益を課すには、大前提となる考え方があり、それは、「個人は自己の行為にのみ責任を負う」という原則。個人責任の原則です。

この場合の婚外子の受ける不利益というのは、婚姻届を出さなかった、または出せなかった、親の都合や選択肢の一つであって、子ども自身の行為の結果ではありません。

自分が行ったことの結果でもない不利益が、なぜ、親にではなくその子どもにかかってくるのか、疑問を感じます。

正しく、全日本同和会の、親が子を思う人間愛を基調とした「子らにはさせまい この思い」に通じるものであり、このスローガンは部落差別だけではなく、すべての差別問題に通じるものだと感じています。

ご承知のとおり、先般、婚外子差別撤廃に向けた画期的な最高裁判決がでました。過去幾度となく最高裁で争われた非嫡出子の相続権が、嫡出子の半分であることの是非が今回は満場一致で違憲と認められました。

しかし、差別は財産分与に関してだけではありません。戸籍や住民票、社会的地位、いじめ、就職、…様々な問題があります。

その中で先日10月1日より兵庫県明石市に於いて全国で初めて嫡出子、非嫡出子の区別のない出生届の様式が運用されました。

地方自治体行政に於いて人権に配慮した素晴らしい試みでありましたが、その2日後の10月3日には神戸地方法務局より「法律、法令違反」と指摘され、翌4日には法務大臣が違法と結論付け、遺憾の意を表明しました。また、神戸地方法務局、局長名で是正勧告を行ったことも発表されました。

人権より現行の法律が大事であると大臣がはっきりと言い切ったのです。

確かに法令順守は当たり前のことですが、国の人権意識の稚拙さが見て取れます。

国連や他国からの人権問題の是正勧告を先延ばしにし、国内の議論まで先延ばしにし、地方行政の人権に配慮した行政施策を阻害し、どのようにして人権尊重の国づくり、町づくりができるのでしょうか?

この問題だけを見ましても、日本に於ける人権行政が世界から遅れていることは、はっきりとしています。国連憲章、世界人権宣言等に批准した真に人権が尊重される国になるには、私たちの更なる運動が必要不可欠だと思います。

また、子どもたちの問題のみならず、私たち母親の方にも母子、寡婦の問題があります。婚姻届のあるパートナーを亡くしたとき寡婦として手厚く制度が整備されているにも関わらず、婚姻届の無いパートナーをなくした時には只の母子として扱われます。しかもそれは私たち親だけの不利益ではなく、子どもにもそれは伴います。

これらの差別は、時の権力者に都合のいいように作られた法律で、日本に昔からある風習・伝統、その家のしきたりや習慣とも言える、長男が家督を継ぐといった、家制度や家意識は、未だ根強く残っています。

結婚式に「○○家と○○家の婚儀」と掲げられていることや、「○○家の墓」というように、個々の幸せや尊厳よりも、家や墓を守ることを主軸とした風習がごく当たり前のようにあります。

この家制度がまさに部落差別に直結するものであり、良家に出生した人は家柄がよく、部落民の子として出生した人は部落民であると脈々と継がれて行く 社会が未だ現存します。家柄、門地によって個人を見られることもなく、ひとくくりにされ個人の尊厳もないがしろにされている事実があるのです。

私たちは、多くの方が普段なにげなく受け入れている偏見や因習、固定観念、穢れ意識等を常に問い直す努力や歴史を学ぶことが必要であり、何事にも関心を持ち、理解を深め、関わっていくことの大切さをあらゆる人と共に学び、すべての人権問題・差別問題はひと事ではなく、自分自身の問題でもあると認識し、運動に取組んでいます。

私たち県連女性部は、すべての人が、「子らにはさせまい この思い」の気持ちを活かしていけるような運動を展開して、日常生活を送ることができれば、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題の早期完全解決につながるものと信じ、差別のない社会になると強く感じます。

同和問題をはじめ、さまざまな差別問題、人権問題を通して私たち女性部が強く思うところは、日本国憲法が保障する基本的人権とは、差別を受けてきた人々が中心となって、長年にわたり自由獲得の努力や運動をしてきた成果であって、この権利は、過去いくつもの試練に耐え、日本に居住するすべての人々に対して、決して侵すことの出来ない永久の権利として信託されたものであります。

したがってこれを踏みにじろうとする差別に対しては、人間としての誇りを持ち、未来ある子どもたちを守り、相手が誰であろうと決して許さない勇気を持つことが大切であると考えます。

最後になりましたが、私たち和歌山県連女性部は今後もより一層、全日本同和会女性部だからこそできる役割を認識し、中村県連会長、事務局の指導のもと、各県連女性部の方々と協力・連携し、松尾全国会長、中村女性部長のもと全国民的運動を展開していくことを皆様方と共に誓いまして、和歌山県連の意見発表とさせていただきます。

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